
⒈年末調整とは何か?
「年末調整」とは、源泉徴収された税額の年間の合計額と、年税額を一致させる精算の手続です。日本では、給与所得者の所得税は「源泉徴収」として、毎月の給与や賞与から自動的に差し引かれていますが、これはあくまでも「仮の税額」であり、年の終わりに正しい税額を計算し直す必要があります。
この再計算を行うのが「年末調整」であり、一般的には毎年12月に実施されます。
◆なぜ年末に精算するのか?
年の中途にはその人の年間の給与額や家族構成、保険料の支払状況、扶養家族の数などが分かっていないため、正確な所得税額を計算できません。そこで毎月は「目安」として源泉所得税を差し引き、年末に実際の収入と控除を基にした正確な所得税額を計算し、差額を精算するのです。
⒉年末調整の目的
年末調整の目的は、源泉徴収された所得税額と、実際に納めるべき所得税額との差額を精算することです。
会社が毎月従業員から源泉徴収する所得税額は、「源泉徴収税額表」に基づいて一律に計算されているため、個別の状況(扶養家族、住宅ローン控除の有無など)が正確に考慮されていません。また、生命保険料や地震保険料の控除などは、年末調整の際に控除することとされています。結果として、以下のような問題が生じます。
・控除が多い人は「税金を払い過ぎている」
・控除が少ない人は「税金が足りていない」
これを調整し、払い過ぎていれば還付され、足りなければ追加徴収されます。
⒊年末調整と確定申告の違い
比較項目 | 年末調整 | 確定申告 |
手続き | 会社が行う | 本人が税務署へ提出 |
対象 | 給与所得者(会社員など) | 個人事業主・副業あり・年収2,000万円超など |
控除範囲 | 一部の控除(保険料・扶養・配偶者等) | 医療費控除・寄附金控除なども対象 |
必要性 | 事業者の義務 | 対象者は義務あり |
確定申告が必要なケースとしては以下のようなものがあります。
・雑所得が20万円を超えている
・年末調整で反映できない控除がある(医療費控除・寄附金控除・住宅ローン控除初年度など)
⒋年末調整の対象者
原則として給与の支払者(会社など)に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」といいます。)を提出している人の全員について行いますが、例外的に対象とならない人もいます。
◆年末調整の対象となる人
次のいずれかに該当する人
⑴1年を通じて勤務している人
⑵年の中途で就職し、年末まで勤務している人
⑶年の中途で退職した人のうち、次の人
①死亡により退職した人
②著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人
③12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人
④いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が123万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払を受けると見込まれる場合を除きます。)
⑷年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人(非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人をいいます。)
◆年末調整の対象とならない人
次のいずれかに該当する人
⑴上記に掲げる人のうち、本年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人
⑵上記に掲げる人のうち、災害により被害を受けて、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」の規定により、本年分の給与に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予又は還付を受けた人
⑶2か所以上から給与の支払を受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人や、年末調整を行うときまでに扶養控除等申告書を提出していない人(月額表又は日額表の乙欄適用者)
⑷年の中途で退職した人で、上記の⑶に該当しない人
⑸非居住者
⑹継続して同一の雇用主に雇用されないいわゆる日雇い労働者など(日額表の丙欄適用者)
⒌年末調整の流れ
⑴必要書類を配布する(10月~11月)
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
・給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除当申告所兼給与所得者の特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書
・給与所得者の保険料控除申告書
⑵所得税額を計算する(12月)
提出された書類をもとに、会社の経理部門や税理士が、従業員一人ひとりの1年間の給与所得と控除額を計算し、実際に納めるべき税額を算出します。
⑶差額を精算する
源泉徴収した所得税額と実際に納付すべき所得税額に差額がある場合は精算します。
・預かりすぎていた場合→差額を従業員に還付する
・足りなかった場合→差額を従業員から徴収する
⑷源泉徴収票の発行
最終的な所得、所得税額等を記載した「源泉徴収票」を従業員に発行します。これは、確定申告をする場合や、引っ越し、転職、住宅ローン審査などでも必要になります。
⑸源泉所得税を納付する
原則→翌年1月10日まで
源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合→翌年1月20日まで
⒍年末調整の控除項目と必要な書類
◆主な控除項目
・基礎控除
合計所得金額2,350万円以下の納税者に適用される控除
・扶養控除
一定の要件を満たす扶養親族がいる場合に適用される控除
・配偶者控除・配偶者特別控除
一定の要件を満たす配偶者がいる場合に適用される控除
・社会保険料控除
健康保険、雇用保険、厚生年金、国民年金の保険料で被保険者として負担するものなど
・生命保険料控除
生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に一定の金額の控除を受けられる
・地震保険料控除
地震保険料を支払った場合に一定の金額の控除を受けられる(旧長期損害保険は一定の要件が必要)
・小規模企業共済等掛金控除
独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金
確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金
確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金
心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金
・住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
住宅ローンを利用して住宅を取得した場合、一定の要件を満たすと税額控除を受けられる
◆従業員が会社へ提出する書類
・控除証明書(保険会社などから送られてくる)
・住宅ローン控除の証明書(2年目以降)
・扶養控除等申告書などの記入済書類
・中途入社の場合、前職の源泉徴収票
⒎年末調整の将来的な動向
近年では電子化の動きが進んでおり、従業員が紙ではなく、スマホやPCからweb上で提出できる企業も増えてきました。国税庁も「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」を提供しており、ペーパーレス化の方向に進んでいます。
まとめ
年末調整は、会社員や給与所得者が適正な税金を納めるための、非常に重要な制度です。ただ「会社がやってくれるからいいや」と他人任せにせず、自分自身でもどのような控除が受けられるのか、どんな書類が必要なのかを理解しておくことが、賢い納税者としての第一歩です。
特に結婚・出産・住宅購入・保険加入といった人生の転機には、税額が大きく変わる可能性があります。そうしたときにはしっかりと年末調整や確定申告に備えて、手続きを怠らないようにしましょう。
監修:佐藤 拓真